大事にされたいのは君
「んな奴に吉岡さんは任せられません」そう言い切った瀬良君を、兄は静かに見ていた。ただ静かに、何かを思案しているのか、それとも次の行動を待っているのか…意味を持つ静けさを孕む視線が、うるさいくらい強く瀬良君に注がれた。
「おまえ、名前なんだっけ」
不意に開かれた兄の口から出た問いに、「瀬良 透です」と、瀬良君は名乗った。
「瀬良。この後何かあんの?」
「いえ、特に無いです」
「じゃあ寄ってけよ、おまえからも詳しく知りたい」
それだけ言うと、ひらりと向きを変えた兄はマンションの玄関へと吸い込まれて行き、瀬良君も当たり前のようにそれに続いた。
「……」
呆気にとられていた私だったけれど、ハッと一人取り残されそうになっている事に気づき、慌てて足を進めた。何やら事がどんどん思いもしない方向へと進んでいく為、気がつけば私は蚊帳の外感すらある。まさか瀬良君がこんな風に出るなんて、兄が瀬良君に興味を持つなんて、二人の通じた何かはさっぱりわからず、私には不安しかなかった。