Vanilla
こんなに胸をキュンとさせられているのに、私は何故忘れていたのだろうか。
完全に朝永さんのせいだ。

「杉森、昨日で伝わらなかったか?」

割り込むのと同時に私の首に腕が巻きついた。
朝永さんが後ろから私を抱き締めた。
それを見た杉森さんは私達をすぐさま視界から外して席へと向かって行った。

私の恋が離れていくっ!

「は、離して下さいっ、朝永さんっ」

私は小声で訴える。

「お前、もっと上手く演技しろよ」

低い声で耳元で呟くと離れて行った。

「勝手「クビになる?」

勝手なことをしないでと言い切る前に遮られた。

私は朝永さんには逆らえない。


始業ベルが鳴った後、私は仕事よりも考えていた。
あのキスのこと。
だって私のファーストキス。
もう初めては帰ってこないわけですよ。
それに杉森さんの告白よ。
もし私が杉森さんを好きだったらとか、彼氏が居たらとか、絶対に考えてないよね。

朝永さんは私の事を何も考えてないよね!

パソコンのキーボードを叩く音がいつもよりも煩いのは気のせいではない。


「昨日のディープキス、凄かったわぁ」

お昼ご飯中、思い出したくもない事を愛佳ちゃんが掘り起こす。

「もう二度と言わないで」

午後も苛々が収まらない。


「帰るぞ」

仕事を終え、ロッカールームを出ると、甘ったるい顔でお出迎え。
苛々しかしないが、反抗なんて出来ない私は言われるがままついていく。
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