Vanilla
「お似合いですよ」

営業スマイル全開の店員さんに今は何を言われても靡けない。

「これも買います。会計を」

そこに本人に確認もせずに朝永さんが勝手に即決。

「ありがとうございます。御客様の着ていた服を入れる袋をお持ちいたしますね」

そう言った店員さんが離れていく。
唖然とした私を置いて。
私はそこで漸くハッとして朝永さんに言い返してやろうと彼を探すが、既に姿が見えなくて。

私は「はぁ……」と溜め息を溢すと観念して、篭に入れておいた着ていた服をしゃがんで畳む。

溜め息しか出ない。

店員さんがすぐに「お待たせいたしました」と戻ってきた。
袋を受け取って服を中に入れると、観念して鞄を掴む。

この鞄はスーツにもカジュアルにも今のワンピースにも合う、一万円程の無難な紺色の鞄。

良かった、この鞄で。
これまで合わなかったら、絶対買わされていたわ。
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