Vanilla
朝永さんはすぐにケーキにフォークを入れると口に運んだ。

咀嚼している朝永さんの顔をマジマジと見るのは失礼かなと思い、私は先程シンクに置きっぱなしにした食器を洗おうと思ったところだった。

私を見上げた朝永さんと目が合った。


「美味いよ」

優しい弧を描いた目と唇。

穏やかそうな顔で微笑まれた。

その顔に胸の奥がぎゅうっとなって、また目の奥がつんと熱くなるのを感じた私は思わず顔を背けた。

諦めようとしている私にその顔は反則だ。


「グミも食べろ」

また聞こえてきた声。

「朝永さんのですから大丈夫です」

顔を見ずに拒否をして、今度こそ食器を洗いに行こうとした時だった。


「つぐみ」
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