Vanilla
それなのに朝永さんは退がる私の頬を掴んだままついてきて。

私はパニック状態に陥っていた。

だって意味が分からない。

キスしたいって。

好きな人がいるくせに。

私は再び後退りする。

それなのに朝永さんはついてくる。

攻防戦を繰り返していると、ついに動けなくなった。
壁のせいで。


「観念しろ」

不機嫌そうな顔と細い目。
逃げて言うことを聞かない私に相当苛立ったらしい。

朝永さんは両手を壁について、私の逃げ場を完全に潰してきた。

私は諦めず、顔を背けるという小さな抵抗を試みた。

だが次の瞬間、更にパニック。
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