Vanilla
『ちゅっ』


突然、目尻に生温かい感触とリップ音。

あのこめかみのキスに似てる。

優しい触れるだけの短いキス。

驚きすぎて動くことも出来ない。

反応したくないのに心臓が跳ね上がる。

自分を落ち着かせたいのに、落ち着くことなんて出来ない。

目を見開いて固まっている私の目尻を、朝永さんの唇が何度も触れては離れてを繰り返しているから。

まるで溢れる目尻の涙を掬うように。

たまに耳元にかかる、熱い吐息が擽ったい。

朝永さんのせいで、先程から自分の心臓の音しか聞こえない。

鼓膜に響く、心臓の音は痛いほど。

涙は朝永さんにドキドキしすぎているせいで完全に止まった。
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