Vanilla
「でも朝永さん、本気じゃないでしょう?」

だが彼女は、フラれたことに苛立ったのか、相手が私なのに勝てなかったから悔しかったのか、女性が引き下がらなかった。
猫撫で声の彼女は朝永さんへと手を伸ばした。

その手に胸が騒つく。


「それ以上言うと怒るけど」

彼女の手を拒むように、声のトーンがあからさまに低くなった朝永さん。
私が聞き慣れているトーンに、彼女の手はピタリと止まってくれて、胸を撫で下ろした。

今の会話を聞いて、私に恋人役を頼んだ理由が少し分かった。
モテすぎても面倒なんだな、と。
でも自業自得のところもあるよね。
女遊びの噂話は本当なんだから。

とりあえずこの場を去ろう。
見つかったら気まずいし……


「つぐみ」


踵を返したところに、優しいトーンで名前を呼ばれた。
すぐに左手には圧迫感。
ハッとして振り返ると、そこには甘い顔を作っている朝永さん。
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