Vanilla
「……俺はもう言った」

「言ってませんよ!」

「お前が勝手に忘れたんだろ」

「ズルい!」

私は再び繋がれたままの腕を振って抗議する。

「酔っ払うお前が悪い」

「ズルすぎる!」

「帰るぞ」

さっきまで拗ねていたのに、朝永さんは楽しそうに笑っていた。


帰る道、私達はずっと「言った」「言ってない」の押し問答。

手を繋がれたまま帰ってきた朝永さんのマンション。
まさか帰ってくるなんて思いもしなかった。

朝永さんは玄関に入ると電気を点けた。

その直後、ドサッと荷物が床に落ちた音が響いたかと思ったら壁に押し付けられた。

すぐに始まった性急なキス。

でもあの時とは違う。

あの時よりも余裕は無さそうだけれど、優しくて甘いキス。

あの誕生日の次の日のキスに似ている。

あの日には既に朝永さんは私を想っていてくれたのだろう。

それなら告白していれば良かった。
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