突然婚⁉︎ 〜きみの夫になってあげます〜
この区立図書館の司書を始めてそろそろ十年になるが、今までに一度も名指しでクレームなんか、来たことがない。
そもそも、周辺に大学はおろか統廃合によって小中学校もないという、営業マンたちからヒマ潰しにしか使われていない、オフィス街のど真ん中の図書館の司書に、なんの「不満」があるというのだろう?
たとえ営業マンたちが机に突っ伏してガン寝してたって、うるさくない限りは注意の一つもしたことがないっていうのに。
「……君、常連の営業マンたちに、色目使ってる、って本当?……実は、本館でもウワサになってるらしいんだよね」
タヌキ館長……もとい、綿貫館長は上目遣いで訊く。つぶらな目なのに、愛嬌はまったくない。
まったくのありえない話に、わたしはぼんやりしてしまった。
「一応、西村君にも聞いてみたんだけど、君がそんなことをするはずがないって、一点張りでさぁ……でも、まぁ、同じ職場だから、そりゃあ、庇うよね?」
「わっ、わたし……そんなこと、してませんっ!」
我に返ったわたしは、あわてて叫んだ。
「そっ、それに……西村さんの言うことは本当ですっ!信じてくださいっ!!」