きみの左手薬指に 〜きみの夫になってあげます〜
「……あのクソ野郎……っ」
真生ちゃんは低ーい声で唸った。怖い。
「あぁっ、うちも一緒について行くべきやったっ!うち、前からあいつはウソ臭いって思っとったんやにっ!表面上はやたらと穏やかで愛想ええけど、腹ん中ではなに考えてんのかわからんヤツやってっ!」
方言でまくし立てるように言う。
真生ちゃんは東海地方でも関西寄りの県出身のため、生まれも育ちも東京のわたしからは関西弁にしか聞こえない。超怖い。
「いやいやいや、まだ彼がストーカーだと決まったわけじゃ……」
やっぱり真生ちゃんは司書でよかったかもしれない。警官になっていたら、たぶんあらぬ疑いをかけられた人をたくさん生み出していたであろう。
「……やっぱ『原』っていう名字が、すべての元凶やってんさ」
いやいやいや、それは「真生」ちゃんだけだから。
真生ちゃんは「原」という名字の人とは、絶対に結婚しないことを固く心に決めていた。
といっても、過去に「原」さんに手痛い失恋をしたわけでも、過去の自分を呼んできて正座させて説教したくなるような恥ずかしい思い出が「原」さんとあるわけでもない。
……ただ、結婚して「はら まき」には絶対になりたくないだけだ。
だから、万が一にでも恋に堕ちないように、「原」さんのことは最初から憎むようにしているのである。