きみの左手薬指に 〜きみの夫になってあげます〜
「銀は硫化するから、すぐに黒くなって手入れがたいへんだよ。あ、よく『銀は酸化して黒くなる』って言われがちだけど、銀製品が黒ずむのは空気中の硫化水素と反応して硫化銀が発生してのことだからね」
ブルーバックス科学手帳を愛読する葛城さんはそう「解説」してくれた。
「もしかして、硫化水素って、漂白剤なんかの塩素系の洗剤に酸性洗剤を混ぜると発生する『混ぜるな!危険』のアレですか?」
わたしは思わず尋ねていた。
「うん、そうだよ。でも、自然に空気中に含まれる程度の量によって反応するだけだから、銀製品を身につけてたからって死なないけどね」
葛城さんは、にやっと笑った。
イケメンはどんな表情でも見目麗しい。
……いやいやいや、そんなことではなくて。
「ほら、櫻子さん、見てごらん。やっぱりプラチナの輝きっていいね。でも、あんまりシンプルだと、どこで買っても一緒みたいだから、ちょっと印象的くらいな方が僕はいいと思うんだけどな。
かと言って、ロゴ入りとか、いかにもカルティエです、っていうのもなー」
……いやっ、でもっ、
このブランドでしかもプラチナでそういうのだと、二十万円超えちゃうんですけれどもっ!
「えっ、えっと……あっ、あれはっ」
わたしは思わず指さしたのは、プラチナではなく、ゴールドだった。
だけど、普通のゴールドではなく、そのリングは微妙に違った。
イエローゴールド・ホワイトゴールド・ピンクゴールドの三連なんだけど、バブル期に流行ったとかいう三本が独立してバラバラしたタイプではなく、三連がぴたっとくっついたデザインだった。
「トリニティ・ウェディングリング」という名前がついていた。
「へぇ、いいんじゃない?櫻子さん、センスあるね……ちょっと、すいません」
葛城さんが店員を呼んでいた。