きみの左手薬指に 〜きみの夫になってあげます〜
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わたしたちは今、華丸百貨店の上階のレストランフロアにいる。

葛城さんは、大阪発祥のデパートである華丸ならではという東京初進出の洋食屋さんに、わたしを連れてきた。そして、ここに来たらぜひ食べてみるべき、と勧めてくれたスープハンバーグというものを食べているのだが。

「……美味(おい)しい」

わたしは、心からぽろりと出てきたようにつぶやいた。

ジューシーで噛みごたえのあるハンバーグが、和風な「すき焼き」味のスープと相まって、口の中でほろほろとほぐれていく。

人は、本当に美味しいものを食べたときは、シンプルな言葉しか出ないものだ、とつくづく思った。

「……だろ?」

葛城さんはビアグラスを片手にドヤ顔をした。中身はノンアルコールビールだが。

「あの……葛城さん」

わたしは自分の左手薬指を見ながら言った。

「今日初めてお話した人から、こんな高価なものはいただけないんですけれども」

カルティエの三色のゴールドが、オレンジ色の店の照明の中できらきら瞬いていた。
イエローゴールドが「忠誠」、ホワイトゴールドが「友情」、そしてピンクゴールドが「愛」をあらわしているという。

つい先刻(さっき)、葛城さんが買ってくれた「トリニティ・ウェディングリング」だ。

プラチナではないとはいえ、それでも十数万円はする代物である。それを、葛城さんは自分の分まで購入したのだ。

……もちろん、カードでボーナス払いにしてたけど。

「わたしの分は……お支払いします」

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