きみの左手薬指に 〜きみの夫になってあげます〜
「初めまして……僕は、萬年堂に勤務しております、葛城 慎一と申します」
自転車から降りた葛城さんが、にっこりと笑っておばちゃんたちに挨拶した。
わたしもあわてて荷台から降りる。
「あらぁ、萬年堂といやぁ、昔っから文房具を売ってるおっきな会社だよねぇ?」
中村のおばちゃんが、山田のおばちゃんに同意を求める。
「そうだよぅ。うちの佑のあさひ証券と同じ一流企業じゃないか」
山田のおばちゃんが、息子のご自慢もぶっ込みながら讃える。
速攻で「身元」を明かした葛城さんは、おばちゃんたちを安心させたようだ。
しかも、イケメンだし。
心なしか、おばちゃんたちの頬が赤い。
「櫻子ちゃん、図書館のお得意さんかい?」
だが、しかし……しっかりと聞きたい「核心」は突いてくる。さすがだ。
すると、葛城さんはさらに笑顔を満開にさせて、声高らかに宣言した。
「いえ、仕事上でのつき合いではないんです。
実は……近々、僕と櫻子さんが結婚することになりまして。ですので、これからどうぞよろしくお願いします」