王子様とブーランジェール




確かに。

あの件に関しては、俺に落ち度がなかったということは、絶対にない。

あの状況下にいても、俺が毅然とした意志を見せていれば、こんなことにはならなかったような気もする。

やってしまったことはやってしまったこと。これはもう次の機会に活かす。

いや、次は絶対ないように。

罪悪感を抱えてあたふたするぐらいなら、最初から隙を見せなきゃいいだけだ。


後悔だけは、するな。




「すいません、ちょっとトイレ行ってきます」


休憩時間を利用して、ちょっとグランドを離れる。

向かったのは、さっきまでいた校舎の方だ。


トイレに行くことは、行くけど。

さっきから、気になっていることがある。



『極悪非道な連中だぞ!』

『真っ裸にされて写真撮られて脅迫された女子もいる』



あの、先代ミスターのファンクラブ連中。

狭山たちのことだ。



木元さんの話を聞いてから、状況が変わった。

連れていかれた桃李が、ひょっとしたら酷い仕打ちに合ってるかもしれない。

そう思ったら、気が気でない。



さっき、追いかけて取り返さなかったことを、少しばかりか後悔している。




…アイツら。

桃李に手なんか出してみろ?

もし、その時は、もう一戦交えてやる。

桃李に何かあって、後悔するぐらいなら、相手が女だろうが狭山だろうが、殺る。




桃李を、守るために。





正面玄関口から、校舎に入る。

校舎内にいるかどうか、ます靴箱を確認しようと思った。



(…ない)



桃李の靴箱には、上靴しか入っていなかった。

…もう、帰ったのか?


いや、待てよ。

もしかしたら、場所を変えて外になんて連れていかれたってのもあり得る。

探しに行った方が良いか?


靴箱の前で佇みながら、考える。



「桃李、帰ったみたいだぞ」

「…理人?」



そこには、Tシャツとジャージ姿の理人が立っていた。

部活を抜けてきたのか。



「何。心配で様子見にきた?」

「当たり前だろ。おまえもか」



ちっ。おまえはいいんだよ。おまえは!



「さっき、女バスのヤツから聞いた。桃李、5時前に帰ったのを見たって。特に変わりはないような様子だったみたいだけど」

「ふーん…」


特に変わりはないような様子、か。

そうとは言っても…何かされていないか、不安は残る。

極悪非道な連中が、何の用だったのかっていう疑問もある。




帰り、寄ってみるか。




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