王子様とブーランジェール
カメラに顔を近付けていたポメラニアン。
よく見ると…狭山にそっくりだな。
犬がカレシって、あながち本当か?
…だなんて。
顔をカメラから離すと、そのポメラニアンは人間の膝の上にちょこんと乗っているのがわかる。
『噛ろうとするな。このクソ犬』と、膝の主に頭を叩かれていた。
ポメラニアンを乗せた膝の部分と、抱いている手しか映っておらず、顧問は顔を見せていない。
映っている手には、男物の指輪とブレスレットがしてあった。
犬を抱き直して、自分も座り直している。
謎感満載だ。
この人が、残党の顧問か。
この人が…。
『…さて。準備は出来てるか?』
パソコンの向こうから、声が聞こえた。
トーンの低い男性の声が、スピーカーから響き渡る。
「顧問、いいですよ」
菜月がそう返すと、その場にいた女子生徒たちは一気に静かになり、そのパソコンの画面に注目する。
『やあ、みんな久しぶり。先代ミスターの可愛くて悪い悪いデビル達?』
すると、その場にいた女子生徒たち、残党のメンバーは一斉に声を揃える。
「顧問、お久しぶりでぇーす!!」
一気に、黄色いキャピついた声になった!
その浮わついた高い声のざわめきからは「相変わらずお素敵な声…!」やら、称賛の呟きが漏れている。
その様子が顧問にはカメラを通して見えているのか、『ははっ』と笑い声が聞こえる。
『デビル達、主のミスターが卒業してしまって退屈していると思いきや、相変わらず元気そうで何よりだよ。やっぱり君たちはこうでなくちゃ』
「はーい!元気が一番でぇーす!」
「常に主を心に想って楽しく過ごしてまぁーす!」
『まったく、デビルの君たちがあのアホミスターに翻弄されていると思うと滑稽でならないよ。面白いね』
さりげなくディスった。
爽やかに涼しげにディスったぞ。
『それに、新しい顔もいるみたいだね。と、思いきや見たことある顔もいるな。…あ、そこにいるのは絶対零度の暗黒という、雪と一緒にゴミ袋に詰められた…』
「尾ノ上美咲です!顧問、あの時は救ってもらって感謝してますが、その話は絶対やめてください!トラウマになってるんですから!」
『ははっ。何とも言えないザマだったけどね?あれ、隣にいるのはペン習字仕込みの達筆の…』
「菊地真奈です。半年前はホントに美咲共々お騒がせしてしまってすみません…」