王子様とブーランジェール
『二人揃ってこの高校に来るなんて、世の中って面白いね。…時に、そこにいるのはあのアホミスターのファンクラブに入り損ねた女子か?焼きそばパンを箸で食べていた…』
「2年の藤ノ宮です。ちなみに、焼きそばパンを箸で食べていたのはミスターで、私ではありません」
『あ、そうだったね。君はこの悪ノリ連中の揃ったファンクラブの一員じゃないのに、ミッションに参加するのか?』
「はい。ミスターに救ってもらったご恩がありますから」
『救った?あのアホは何も考えてないと思うよ?めでたいな?』
涼しく爽やかに、バッタバタ切り裂いてんな。この男。
それに、藤ノ宮が先代のファンクラブに入り損ねた女子?
藤ノ宮、先代のファンだったのか…!
それにしても…。
この声、この爽やかで涼しげな話し方を耳にするたびに、どんどんそれは確信に変わっていった。
いやー…ちょっと。
そして、とうとう。
その矛先がこっちに向いてくる。
『…時に、そこにいるのは今年のミスターかな?面白くなさそうに立っているけど?』
面白くなさそうに?
もう、呆気にとられてるんだよ。
だって…。
その質問には、菜月が返答する。
「そうです顧問。彼が今年のミスター、竜堂夏輝くんです」
『へぇー?』
表情は見えないが、恐らく悪そうな顔をしていそうな返答だ。
少しばかりの緊張感を持って、パソコンの画面を見てしまう。
『これはこれは新しいミスター。お初にお目にかかるね?君の活躍はみんなから聞いてるよ?』
「…活躍?」
『菜月とエリから連絡をもらった昨日、実はタイムリーにこれをみんなで見ていたんだ』
犬を抱いている手がカメラのフレーム外に伸びている。
そして、手にしていたものをカメラに見せた。
『これ、学校祭の前夜祭と後夜祭のDVD。昨日あのアホミスターが持ってきた』
「ええっ!!」
その顧問の一言に、周りの女子生徒が敏感に反応する。
周辺は歓声やどよめきが沸き上がり、一気に騒がしくなった。
「…何ですか顧問それは!ひょっとして、先代が…先代ミスターが!」
「顧問、昨日ミスターとご一緒だったのですかぁーっ!!」
「な、何て!なんて羨ましすぎる…!」
「せ、先代は…先代はお元気なのでしょうか!顧問!」
「きゃあーっ!」
何だ何だ?!何だ、この熱気!
悲鳴あげちゃうとか、興奮しちゃってんのかい!