王子様とブーランジェール
『ははっ。君たちの主は相変わらずアホ面していたよ?』
「おい、おまえ。なぜそれを早く言わない。先代が来ていたとわかっていたら、差し入れを持っておまえの家に行ったのに!」
パソコンの横では、狭山が不機嫌そうな顔をしている。
『DVDに夢中でごめんハニー。妬かないでね』
「妬いてなどおらん!このバカめ!」
『ついでに言えば、美梨也兄と三人でDVD鑑賞していたんだ』
「…はぁっ?!兄貴、朝会ったのに、何も言ってなかった!あのヤロー!」
次々とご立腹させてる…。
『…おっと、話が逸れた。ミスター竜堂、君の活躍に楽しませて貰ったよ?オクタゴンでのデスマッチ。あの高瀬に勝利とは凄いじゃないか。華麗なるスピニングバックキック、お見事』
「………」
『ついでに言えば、我がハニーの弱点を暴き、戦闘不能に陥らせるとは恐れ入ったよ。素晴らしい。素晴らしすぎる。ここはDVDには映ってなかったけどね。屋久村から聞いた』
「………」
度重なる憶測に、無言になってしまう。
自分の彼女が、色仕掛けされても怒らず、むしろ誉め称えるとは…。
いや、俺の憶測が正しければ…この人ならそうだ。
少し変わってるからな。
この人なら、狭山の金属バット所持も全然気にすることはない。アクセサリーと同感覚で見てるにちがいない。
この人は、やはり…。
未だ画面に映し出されているポメラニアン。
聞き覚えのある低い声。
その涼しげで爽やかで知的感を漂わせながらも、毒を吐いてバッタバタと斬り込む口調。
この人は、俺の知ってる人だ。
憶測が確信に変わってしまった。
これはもう、口に出さざるを得ない。
「あの…」
『さて、前置きが長くなったね。本題に入ろうか』
「…っていうか、酒屋の兄ちゃんでしょ?」
『………』
思いっきり核心を突いたら、無言になった。
同時に、周りの女子生徒たちもシーンとなってしまう。
「え?夏輝、知ってる人?」
「理人も知ってるだろ。商店街の酒屋の息子。あと犬のポン太」
「あ。あぁー。マジか」
まさか、この人が。
この人とこんなところで、こんなタイミングで出会ってしまうとは。
辺りがシーンと静まり返っている中、パソコンのスピーカーから笑い声が聞こえてくる。
『ははっ。…嫌だな夏輝。もうわかっちゃったのか』
…やはり!