王子様とブーランジェール




『まず、奴らの狙いは、みんなが睨んでいる通り夏輝で間違いないと思うよ。しかし、事件の話を聞いた時、軽く疑問が生じたんだけど』

「それは何でしょうか」

『…それは、昨日の高校付近で起こった襲撃の話。古陽高校の制服を着た連中が六人、またしてもうちの生徒を襲った件。だけど奴らは『星天の男子を狙うという面白いゲームを持ちかけられた』と、夏輝はおろか、ミスターの存在すら知らなかった。…狙いは夏輝のはずなのに、これっておかしくない?』

…それもそうだ。

《ミスター出てこいや!》という紙切れを持ちつつ、俺がどうとか知らないってのは、ちょっとした矛盾だ。

『かと思えば、こんなことを言ってるヤツもいる。…菜月、例の動画』

「はい」

すると、菜月はタブレットを取り出し、カバースタンドを開いて立てた。

そして、画面をスワイプしている。

「…今からお見せする動画は、1-3の梶から提供してもらったものです。梶は同中の友人が襲撃されるのを目撃した際、この動画を撮影したようです」

咲哉の?あの動画か!

咲哉も聞き込みされてたのか。いつの間に。

そして、その動画が再生される。

画面に映っているのは、いかにも不良な3人組。モスグリーンのブレザーに、グレーのチェックのパンツの制服だ。

田仲の両脇を抱えてボッコボコにしている…何とも痛ましい。

俺のせいで、こんなことに…と、思うと再びムカッ腹立ってきた。



『…誰か!誰かぁーっ!おまわりさぁーん!カツアゲですぅーっ!ボコボコですぅーっ!誰か来てくださあぁーいっ!!』

咲哉の声だ。

『てめえ!』

同時に画面がぶれて、視界が変わった。

そういや、殴られたと言ってたな。

しかし、その視点のまま、連中の声だけは聞こえる。

『ちっ…ハケるぞ!』

『…これ、ミスターに渡しとけ!あのスケこましヤロー、出てこいやってな?!ぶっ殺してやるって言っとけ!』

がさがさと足音が聞こえている。逃げたのか。




『…はい、ここ。みんな、聞いてた?』

「ここって、最後のセリフ?」

『そう。スケこましヤローとか、ぶっ殺してやるとか言ってるよね?もう夏輝に恨みつらみありまくり?って印象だ。夏輝、スケこましヤローだって。本当のこと言われてるよ?』

「…スケこました覚えないけど!勝手なこと言わないでくれる?!」

『モテる男っていうのは、知らず知らずのうちにスケをこましてるもんだよ?』

「うるっせえな!」

と、口論してる場合じゃねえ…。


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