王子様とブーランジェール
しかし、帰宅はせずに、職員の駐車場の辺りをウロウロする。
車が一台だけ、駐車してある。
赤のコンパクトカー。
…前村先生のだ。
先生がまだ学校にいるとわかると、車の陰に身を潜める。
もう…何が何だかわからないことだらけなので、もう一回先生と話をしようと思ったのだ。
こんなモヤモヤしたままでいるのは、嫌だ。
数分待っていると、足の裏が地面を擦る足音が聞こえてくる。
少し顔を出して様子を伺うと、待ち人はやってきた。
先生、来た。
『…前村先生』
車の陰から姿を現す。
こんなところに隠れているなんて予想もしなかったのか、俺の姿を見て、先生の体はビクッと震えていた。
『竜堂?どうした?』
『先生、お話ししたいことがあります。時間いいですか』
『な…何だ?』
息をゆっくり吐いて、呼吸を整える。
感情的になっていては、効率の良い話し合いは出来ない。
親父とのプチ討論で学んできたことだ。
『先生、俺…わからないんです。先生の言っていることが』
先生の顔がピクッとひきつって、眉間にシワが寄る。
『…わからない?』
『はい。わからないんです。先生の言っている誠意の意味が』
『………』
先生は無言になるが、俺は話を続けた。
『先生の言う誠意っていうのは、男子が坊主になること、女子は先生の前で服を脱ぐことなんですか?』
『………』
『あれからずっと考えたけど、やっぱり俺にはわかりません。もっと違う誠意の見せ方があると思うんです。それではダメなんですか?』
『………』
『…先生、誠意って、何ですか?』
その瞬間。
腹に大きい衝撃と痛みが走り、その場から吹っ飛ばされた。
おもいっきり蹴りを入れられた。
息が詰まり、一瞬呼吸が出来なかった。
痛みの走る腹を抱えて、ゲホゲホと咳き込む。
呼吸も落ち着いてきたところで、顔を上げると先生は目の前に立っていた。
先ほどの鬼の形相で、俺を見下ろす。
『ガキが…偉そうなことを言うんじゃない!』
そう叫んで、振り上げた足で脇腹をおもいっきり踏みつけてくる。
『…いっ!』
悲鳴が漏れると、全身ドカドカと次々に踏みつけてくるのだった。
襟を引っ張り上げられ、頬に平手打ちをくらう。
大人の本気の襲撃に、手も足も出ない。
対抗する術を持ってない俺は、ただ先生からの攻撃を甘んじて受けるしか他なかった。