王子様とブーランジェール





だが、現時点ではそんな酒店の兄ちゃんの意味のわからない戯れ言に構っていられる余裕もなく。

自分のことで手一杯だ。



先生の言っていることが、理解出来ない。

みんなは理解できるのに、俺だけ理解出来ない。

質問をぶつけると、先生に暴力を奮われた。



それが、ショックだった。



今までのことを、部屋にこもって一人で考える。

…しかし、一人でいろいろ考え込むっていうのはとても危険で。

その思考の方向性が、よからぬ方へ行ってしまう。



クラスのみんなは、何を思ってあの先生に接しているんだろうか。

まさか、あの『誠意』の意味を、本当に正しいとして捉えているのか?



だとしたら、俺には無理だ。

もう、学校には行けない。





『…夏輝!あんた!また学校行かないの?!いい加減にしなさい!』



部屋のドアの向こうから、マリアの怒鳴り声が聞こえてくる。

鍵のかかった部屋のドアノブをガチャガチャ回している。



もう、かれこれ一週間。

引きこもりの不登校を実施していた。

土日は学校休みではあるが、サッカー少年団も欠席。



ずっと部屋から出ずに過ごす。誰とも話さずに。

…というのは、無理な話であり、母親や姉達がそれぞれ仕事や学校に行ったのを見計らって部屋を出る。

作ってあるごはんを食べ、食料調達にてキッチンをあさり、テレビをつけてワイドショーを見る。風呂にも入る。

函館のおじいちゃん二人に電話したり。

父方のおじいちゃんは、函館で学校経営をしているので、事情を話して転校させてくれと頼んだりもした。

しかし、『じいちゃんの学園、女子校なんだ…』と、断られた。

そして夕方、みんなが帰って来る頃を見計らって、部屋に戻る。

そんな生活を一週間も続けていた。



『夏輝!一方的にだんまりじゃわからないでしょ!話をしなさい!理由を話しなさい!』

『………』



何を聞かれても、何も言わない。

どうせ、大人は子供の話なんか聞かないんだろ?黙って言うこと聞いてろってさ。

言うこと聞かないけど、黙っていてやるさ。



『…大人なんて、大嫌いだ!』



そう言い捨てて、布団に潜り込む。

後の話は聞かない。何やらガチャガチャ怒鳴っているが。



もう、学校には行かない。

アイツのいる学校には。

あの野郎が崇められている、あの教室にはもう。

…行けない。

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