王子様とブーランジェール
(…ちっ)
急に頭が重くなり、締め付けられるように痛くなる。
アイツのことを考えると、頭が痛くなるようになった。
…俺は、負けたんだ。
子供は大人に勝てない。
そんなの頭ではわかっちゃいるけど。
状況的に納得出来ない自分がいた。
アイツのやり方は理不尽すぎる。
誰もいなくなった…いや、犬のピンクと二人きり。
リビングでワイドショーを見て気を紛らわそうとするも、そのことが頭にチラついては、イライラさせられていた。
この一週間、俺にいろいろ来客があったようだ。
クラスのヤツらや、少年団の仲間やコーチ。
もちろん、その中にはアイツもいた。
絶対会わないと断固拒否した。
ようやく五日目に、隣のクラスにいる秋緒と理人を部屋に入れて話をしただけ。
この二人に事情を話したら、『ふざけてんな前村と2組。行くな行くな。1組来い』と、言ってくれて少しホッとした。
しかし、引きこもり一週間目の本日。
状況が、動く。
俺が小さな空間に引きこもっている間に、シャバは大変なことになっていた。
ワイドショーで内親王の婚約者のニューヨークライフ特集を見ている場合ではなかったのである。
夕方、みんなが帰って来る前に、大量のお菓子や食料を持って、再び部屋に引きこもる。
秋緒が自分のクラスの授業のノートを貸してくれるようになったため、勉強するようになった。
さっきから、下の階がざわざわしている。
すると、階段を昇る足音がパタパタと聞こえた。
げっ。誰か来るぞ。
と、思った途端、ドアがノックされた。
何だ?時間的にメシか?マリアか?
『…メシはそこに置いておけ!』
ぶっきらぼうに返答する。
しかし、来室したのはマリアではなかった。
『…今日は、出てこないとご飯はあたりません』
その低い男の声を聞いて、衝撃が走った。
な、何でここに?
『…何でここにいるんだよ!何で帰って来たんだよ!』
『家族の緊急事態ですよ。そりゃアマゾンの山奥から帰ってきますよ』
『緊急事態?大袈裟なんだよ!さっさとどっか行けよ!ほっとけ!』
『放っておけない事態になっているのがわからないかい?そりゃ六畳間にずっと引きこもってるんだからわからないよね?』
『ちっ…』
『何があったか事情を聞かせてほしいな』
『うるっせぇな!ほっとけよ!』
『そんなんじゃ納得出来ません。もっと詳しく。この父をも納得出来るような説明をしてください』