王子様とブーランジェール
ちっ…めんどくせーっ!
めんどくせーのが帰ってきた。
ドア越しの攻防は続く。
『学校に行かない、部屋から出てこないってことはつまり、誰かに会いたくないとか、でいいの?友達とケンカした?それともフラれたとか』
『ばっ!…何でそうなるんだよ!』
『えー。お年頃じゃない?違う?じゃあ何で?』
『そ、その手には乗らないぞ!勢いで吐かせようとしやがって!』
『じゃあ積もる話もあるだろうから男同士で今からキャンプに行こう?夜通し徹底討論会、する?どうせ学校行かないんだろ?』
『は、はぁっ?!い、嫌だ!死ぬ!』
『じゃあ学校行く?』
『い、行かねえし!勝手なことばっか言いやがって!』
『勝手なこと?そうかな』
『そ、そうだよ!おまえだって、子供は黙って大人の言うこと聞けとか思ってるんだろ!』
『それは心外だ。言うことは聞いて欲しい場面もあるけど、黙れとは言わない。母はともかく、この父が息子の話を聞かなかったこと、あるかい?』
『………』
それは…ないな。
話聞きたがりで、意見をきちんと言わせてくれる。
言い返す言葉が途切れるが、沈黙する間もなく向こうは喋り続けている。
手をパンと叩いた。
『はい。このまま出てこなかったら、ドア越しで夜通し徹底討論会始めまーす。テーマは《夏輝が先生にボコボコに暴力を奮われた件》か《夏輝は男子なのに女子校に転校したいと言った件》のどちらか』
…何っ!
親父…知ってる?!
じいさんの女子校に転校…したいとは言ってない!
アマゾンの山奥にいたくせに、なぜ!
思わず部屋の鍵を開けてしまった。
バッとドアを開けて、疑問をぶつける。
『…何でそのことを知ってるんだ!』
母親にも姉にも頑なに話さなかったその件を。
なぜ知ってる!
じいさん二人と秋緒にしか…って、そうか。
『だって、みんなからいっぱいメールや電話くるんだもん、帰らないワケにいかないだろ?』
ドアの向こうには、スーツ姿の爽やか好青年サラリーマンな風貌の男性…親父がいた。
『…で、何?女子校に転校したいの?』
『ち、違う!』
違う。俺が聞きたいことはそんなことじゃない。
『親父、何で先生のこと…』
すると手を引っ張られる。
『だから。みんなから聞いたって言ってるだろ?』
『みんな?じいさんと秋緒だろ?』
『まあまあ、下行こ?』