王子様とブーランジェール
背中を押されて階段を降りる。
『…で、どうやって女子校の生徒になるつもりだったの?』
『しつけえな!』
随分引っ張ってくんな?ツボに入ったのか?
下に降りると、ダイニングで家の女たちが普通にメシを食っていたが。
親父に連れられて姿を現した俺を見て、全員動きを止めている。
しかし、そこをすっ飛ばして、リビングには来客が。
俺の登場に、目を丸くしている。
『マジか…あんだけ頑固に出てこなかったのに、お父さんだと一発?…開智さんやるな』
サッカー少年団のコーチ、焼肉屋のテキサスの店長、北峰さんだ。
『だってお父さんだものうふふふ。じゃあ、連れてっていいよ?キタさん頼むね。俺も後から行く』
は?と、思う間もなく。
コーチに手を引っ張られる。
『ちょっ!な、何?』
『夏輝、ちょっと来い!説教は後だ!』
そして、みるみるうちに外へと連れてかれる。
家の前に停めてあったコーチの車に乗せられた。
『ちょっと、コーチ!どこ行くの!』
『みんな待ってるから、いいから来い!』
『えぇっ?!』
みんなって、誰!
そして、車は発進し、ものの数分で到着した。
そこは、商店街の寿司屋さん。
門寿司だ。
門脇さん…サッカー少年団の部長さんち!
『…皆さん、連れてきました!』
ソワソワしながら北峰コーチの後に続いて、お店の中に入る。
そこには何と、商店街のおじさんおばさんたちが集まっていた。
ざっと10人ちょっと。
八百屋さん、お魚屋さん、弁当屋さん、ペットショップのオーナーと動物クリニックの夫婦、最近新しく来た診療所の先生、などなど…。
俺が登場すると、全員『おぉっ!』と声をあげている。
え?え?何で?
『…夏輝!何で黙ってたんだ!』
第一声をあげたのは、門寿司の店長である門脇部長だった。
なぜか叱られる。
『な、何を…?』
『おまえ、担任に暴力奮われたんたろ?!何で黙って引きこもってたんだ!』
『…えぇっ!何でそれを!』
『…これ、おまえだろ?』
門脇部長はタブレットをいじっている。
そして、その画面を俺に見せた。
再生される動画。
しかし、それは全然覚えがあるモノで…。
《先生の言う誠意っていうのは、男子が坊主になること、女子は先生の前で服を脱ぐことなんですか?》
《………》
《あれからずっと考えたけど、やっぱり俺にはわかりません。もっと違う誠意の見せ方があると思うんです。それではダメなんですか?》
あの時の俺と先生…!