王子様とブーランジェール




そして、そのボコボコの一部始終が映し出されている。

あの酒屋の兄ちゃんの出現直前までの模様が、綺麗に撮影されていた。



な、何でこれが…!

いつ撮られてた?



『この動画、SNSで拡散されているのを哲ちゃんが見つけてくれたんだ!』

え…SNS?

何で?!

…親父の言っていた放っておけない事態って、こういうことだったのか!



それに、『哲ちゃん』…?



カウンター席に、一人。

この場に背を向けて座っている、私服姿の背の高いガタイの良い青年が。

静かに振り向いて、こっちの様子を横目で見ている。

涼しげな表情で。

…しかし、その姿に面識あり。

それは紛れもなく、この動画の件の後に出現した中学生だった。

俺と目が合うと、フッと笑っている。

酒屋の兄ちゃん…まさか、おまえが!



『…夏輝、これはおまえなんだな?』

門脇部長が、俺に目線を合わせて今一度問う。

ためらいながらも頷くと、一緒に動画を見ていた商店街のおじさんおばさんたちが、湯沸し器のように一気に騒ぎだして次々に口にする。

『何度見ても腹立つぞ!子供に何てことをするんだこの教師!』

『前から暴力だのパワハラセクハラあるって噂聞いてたけどなぁ?もう我慢がならねえ!』

『卒業生にも被害があった子が何人もいるんだぞ!何て痛ましい…』

みんな、口にする度にヒートアップしているようだ。

商人であるおっさんおばさんの迫力は半端ない。



迫力に押されて口を開けたまま呆然としていると、店のドアがガラッと開く。

そこには、肉のやくむらの店長夫婦…潤さんのお父さんとお母さんが来た。

この二人は登場早々、もうすでに怒りの表情を見せていた。



『…ちょっと!相馬さんとこの愛里ちゃん、あのクソブタ教師にされたこと、校長に全部話したってさ!』

『何っ!それは本当か!』

『教育委員会にも電話したってさ!転校するんだあの子!』

『何だと!』

え?相馬が…?転校?

『そしたらさ!他の子も卒業生の子も、被害に合った子たち何人か、みんな学校側に話すって!今学校に集まってるよ!』

『竜堂さんとこの学園理事長やってる函館のじいさんもカンカンだ!…今、札幌に来ていて小学校に抗議しに行くとよ!』

え?え?じいさんが?

函館から来てるの?!




…俺が、小さな空間に引きこもっている間に。

本当に大変なことになっていた。



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