王子様とブーランジェール
何で、あんなに狭山に…。
何度も思い出してはイライラする。
…だが、桃李に何が起こってるんだ?
あんなに疲れきって、沈んでいて。
しかし、それがますます気になってしまう事態となる。
教室には、すでに何人かが戻ってきていた。
中に入ると、陣太と男バスの内藤が談笑しており、俺に気が付くと軽く手を振っている。
「夏輝、お疲れ」
「決勝惜しかったなー」
「…マジ、あのクラスには負けたくなかった」
「まあまあ、3年相手にたいしたもんだよ」
談笑に加わろうと、陣太の隣の席の椅子に座る。
ふと顔を上げると、 教室に理人が飛び込むように走り込んで入ってきた。
そして、教室内をキョロキョロと見回している。
何かを探してる?
どうした?
「…夏輝!」
俺を見つけると、こっちに駆け寄ってくる。
表情、ちょっとマジだ。
「…あ?どうした?」
「桃李…桃李見てない?!」
桃李?
理人の勢いに多少驚いてしまって、言葉が出てこなかったが、秘密にする理由もないので、そのまま伝えてやる。
「桃李なら狭山といるぞ。家庭科室だ」
「…さ、狭山さん?」
「さっき、そこで会ったんだけど、用事あるってさ」
「…わかった」
「…お、おい!」
居場所を知ると、すぐに教室を飛び出そうとしていた理人を引き止める。
何で桃李を?
「どうした?何で桃李を探してる?」
「…後で話す」
「…は?…あ、おい!」
そう言って、理人は再び飛び出して教室を後にしてしまった。
な、何なんだよ、どいつもこいつも…。
…と、思いながらも。
何だかざわざわしてきた。
桃李も理人もどうした?
何があったんだろう。
『後で話す』って、何を?
俺の知らないところで、何かが起きている。
そう確信してしまうと、ざわざわが倍増して落ち着かなくなってきた。
それから。
表彰式も終わり、教室で帰りのホームルームをやっている最中に、桃李と理人が揃って戻ってくる。
一緒に?な、何で…?
と、思いきや、ホームルーム終了と共に、お互いにすぐに教室から出ていってしまった。
え…何で?
理人、話は?!
その時、手にしていたスマホのバイブが鳴る。
ふと画面を見ると、狭山からメッセージが届いていた。
《放課後、家庭科室に来い》