王子様とブーランジェール



脳内混乱のため、言葉を発せずにフリーズしてしまう。

そこに畳み掛けるように、理人が次の言葉を発した。



「俺、見たんだよ。サッカーの決勝戦の最中に。桃李が女子の先輩に連れていかれるのを。…夏輝のファンの先輩に」

「…ファン?」

「小笠原たちじゃないよ。違う人。メス臭のする方」

小笠原たちじゃない、俺のファン。

メス臭のする方。

誰。



「試合の最中に、女子の先輩四人ぐらいに連れていかれるのを遠くから見えたんだ。慌てて追いかけて探したら、体育館の裏にいた」

体育館の裏、人気のないところか。



「………」



何を言っていいのか、言葉も見つからない。

そんな俺には構わず理人は話を続ける。



「どつかれたり、ボコボコ蹴られたりしてた。『竜堂くんと幼なじみだからって付きまとってんじゃないよこのストーカー!』とか『ちょっと可愛いからって調子乗ってんじゃないわよ!』とか言われてた」

「な…」

「他にも『幼なじみだからって、竜堂くんの彼女気取るな!』とか『竜堂くんが迷惑してるのがわからないの?!』とか」

「………」

「でっち上げもいいところだよ。付きまとってストーカーしてるのは、夏輝の方なのに。それに桃李は自分が可愛いってこと自覚してないし。むしろ彼氏気取りで調子乗ってんのは夏輝の方だし。夏輝は全然迷惑どころか、むしろ迷惑かけてほしがっている。この変態」

「………」

このナーバスな場面で、随分とディスってくれますね。

変態まで言われたよ。おい。

「…あと、『可愛いからって他にも男たぶらかしてんだろ!サッカー部の蜂谷くんと歩いてんの見てるんだからね!』とか『もう一回、指踏みつける?ボキボキにへし折ってパン造れなくしてやる!』とか。尋常じゃない。すぐに庇って助けに入ったよ」

え…それは。



「…指?…もう一回、って言ってたのか?」



桃李の指のケガは、バレーボールの練習で突き指した…んじゃないのか?!



「…そいつらに踏みつけられたんだよ!」



俺と理人の間に割って入るように、藤ノ宮が大声を張り上げて口を出す。

俺をおもいっきり睨み付けながら。



「桃李がパンを造ってるって、知っててわざとやったのよ!…竜堂、どういうことなの!」



どういうことって…こっちが聞きたいわ!



だけど、桃李の指のケガは、バレーボールのせいじゃなかった。

故意に踏まれたもの…?!



まさか、何で。

…何でだよ!



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