王子様とブーランジェール




…それは、約4ヶ月前の宿泊研修での話。



あのナイトハイクという、気持ち悪い肝試しのようなイベントの時。

理人は黒沢さんとペアを組んだ。

…出発待機中に『和田くんに話したいことがある』だか言われていたな。

俺はてっきり、恋バナ的なものだと思っていたが。



しかしそれは、恋バナというには、ホラーに近いものだった。




『和田くん、さっき話したいって言ったことなんだけど…』



ペア出発早々、黒沢さんが理人に本題を持ちかける。



『…桃李と竜堂くんって、いったいどういう関係なの?』



え?何でそう来る?

桃李から聞いてない?

俺も含めて、俺達幼なじみだけど。



『そ、それは聞いてるんだけど…でも、今日ね、桃李と竜堂くんが二人でいるところ見かけて…』



あー。怪しいと思っちゃったんだ。

そこはご想像にお任せしまーす。



『うん。で、ご想像した上で、さっき桃李に聞いてみちゃった。竜堂くんとはどういう関係なの?って。まさか、友達以上恋人未満とか…!って』



お。鋭いね、黒沢?

で、桃李に聞いちゃったんだ。

桃李、何て言ってた?非常に興味あるわ。それ。



『そ、それが…』



黒沢さんの顔は微妙にひきつっていたらしい…。



『夏輝にとって私は《パンを焼いてくれる下僕》だよ?って…』



………。




下僕?って、あの下僕?



『でも勘違いしないでね?夏輝は小学の修学旅行で、私が遊園地で吐いたゲロを始末してくれたの。下僕にも優しい神様みたいな人なの…って』

『………』

『…ねえ、和田くん?!下僕って何?!主従関係なの?あの二人!ゲロ?…好きでもない子のゲロ、始末できる?!好きな子のだって無理でしょ!』



…その後、黒沢さんに説明して、誤解をとくためにはだいぶ時間を要したという…。








「下僕…」



下僕ってさー。

召し使いの男、とか。しもべとか。そういう意味だろ?

女なら、下女だろ…!バカ丸出しか!



…と、言ってる場合じゃない。今ここでは。



桃李は…俺が桃李のことを、パンを焼いてくれる下僕だと思っている、と、思っている。

ややこしい。

桃李は…俺に下僕扱いされてると思ってる?

ってことか…?



(………)



…この状況。

実は、とても大事件なんじゃないのか…?



…何てことだ!




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