王子様とブーランジェール
「下僕…」
二度も呟いてしまった。
頭の中が、真っ白だ。
茫然とする。
突然として降りかかってきたことに、ショックはだいぶデカい。
ガーン!!という、バックの効果音が流れるような、そんな感じ。
桃李が…まさか、桃李が。
俺に対して、そんな風に思っていただなんて。
下僕…。
…下僕だなんて、一度でも思ったことあるか。
パンを焼いてくれる下僕、ではない。
パンを焼いてくれる…たった一人の大切な人、だ。
なのに…なのに!
「…王子様にパンを献上する下僕?…桃李の捉え方は独特だな。やっぱ変わってるわ。桃李」
「………」
もう、ショック過ぎて、声も出ない。
独特とか、変わってるとか、そんな問題?
俺の5年間、いったい何だったんだ…。
愕然とする。
そんな中、理人に追い討ちを掛けられるような一言を投げ掛けられるのであった。
「…照れ隠しだか、何だか知らないけどさ?…ドジ踏んだら、すぐに大声で雷を落とし、冷たい言葉を投げ掛ける」
そう言いながら、理人は椅子に腰かけたまま、俺をじっと見ている。
身に覚えのあるその一言は、胸のど真ん中にグサリときた。
「…ダメだの、ドジだの、挙動不審だの…上から目線でくどくど小言をいう」
またしても、グッサリとやられる。
「しまいには、何かにつけてはバカバカと、桃李をバカ扱いする。家では苺さんに、学校では夏輝に…これで、自尊心がズタズタにならないワケなくない?」
俺もズタズタだ…。
…じゃなくて。
実は…この件に関しては、俺自身、見ない振りしてきた感がある。
ついつい落としてしまう雷、のちほど後悔していたことがほとんどなんだけど。
でも、頼られたいアピールに必死になっていたというのもあって、中途半端になっていた。
ダメだの、バカだの言われ続け。
洗脳されるかのように、刷り込まれ。
《え…だ、だって、それは本当のことだもん!》
《私、ちゃんとしてないし、バカだし…夏輝が正しいんだもんっ!謝るなんて…》
ついには自分自身で、それを素直に認めてしまい。
自己評価の低い、自信なさげな劣等感の塊となる。
…結果、パンを焼いてくれる下僕、か。
中途半端に対応していたツケが、こんなカタチで返ってきやがった。