王子様とブーランジェール
まさかのカミングアウトに、動揺を隠せないでいる。
体がザワザワして、そわそわして落ち着かない。
見た目、挙動不審だと思う。
その話、本当なのか?
俺、騙されてない?
だなんて、信じられない自分がまだまだいる。
「…でもさ、黙って見てられなかったんだよ。桃李が可哀想すぎて」
「桃李が…可哀想?」
またしてもため息をつく理人は、椅子を持ったまま立ち尽くしている。
「誰かさんのことを好きで好きで健気に想ってるのに、自分に自信がなくて何も言い出せずにいてさ。…実は、球技大会の決勝、頑張って夏輝のこと応援してたんだよ?俺の時みたいに」
「…え?!」
桃李が、俺を応援?
そんな喜ばしいこと、気付かなかった…!
「あのファンの女子たちの量と勢いじゃ、掻き消されるだろうけどねー。しまいには『あんた邪魔!』ってどつかれて…で、諦めてとぼとぼ歩いてたら、あのイジメ女子連中に連れて行かれてしまったわけだ」
「そうだったのか…」
「しかし、その誰かさんに、毎日のように怒られる。バカと連発される」
うっ…また、胸をグサッとやられる。
「それに、その誰かさんが他の女にちやほやされたり仲良くしてたり、イチャついているところを目にしては、心を痛めて」
「イチャついとらんわ!」
「夏輝はそう思ってるかもしれないけど、あれはイチャついてるでしょ。何かと女子に話しかけられてるじゃん」
ちっ…。
「で、誰かさんのファンにイジメられるわ、誰かさんがいじけちゃって『もう関わるな』って口も聞いてもらえないとか…可哀想で可哀想で」
「…だから、それはどうかしてたって言ってんだろ!しつけえぞ!」
「…どうかしてた?!…はぁ?…夏輝、おまえはずっとどうかしてるよ!」
「ずっと?…んだとコラ!俺のどこがどうかしてるんだよ!」
「全てがどうかしてるんだよ!…だいたいさ?恥ずかしいだか照れるだかで、5年間も片想いしてんの、ただのチキンだろ?!ホントどうかしてるわ!」
「何だと?!…こっちにはいろいろ事情があったんだっつーの!」
「はぁ?事情?…何の事情だよ!『恥ずかしい』と『照れる』以外、何の事情があるんだよ!…あー。『フラれるのが恐い』のもありましたっけー?」
「おまえ…このヤロー!」
「…そんなんだから、拗れまくってるんじゃないのかよ!…そんなの、桃李が可哀想だ!」
何だかいつの間に。
口論となっている…。