王子様とブーランジェール




私達の関係性を見ていたら、そんなことあるはずないのに。

それをわかっている秋緒も『人の噂って面白いですね』と笑っていた。

もう、笑い事じゃない。

理人のファンの子たちから、すごい睨まれたり、陰口叩かれたんだから。




理人だって、みんなの前で『ご想像にお任せしまーす』なんて、私の肩をわざと抱き寄せてみんなにピースをして。

それを見ていたクラスの不良っぽい男子の舟橋くんや千島くんたちまで、『これ、やばくね…?』と、呟いていた。



もう…みんな、誤解するでしょ!



そう理人に言うと、

『みんな受験勉強で疲れてるから、たまには面白い話題提供してやんないと?』

と、笑っていた。

本当に不思議ちゃんなんだから。



そんな噂も、ただの噂だったと落ち着いてきた頃なんだけど…。



まさか、ここで夏輝にまで言われるなんて。



『…も、もう、またその話』

『えっ?』

『み、みんなに言われる。あるワケないしょ。私と理人が付き合うなんて』


夏輝は目を丸くしている。


『…えっ?…だ、だっておまえら、夏祭りの後、二人で堂々と消えてたし、草むらの陰でイチャイチャしてたって…』

『もう。あ、あれは、私の慰労会。祭りの食べ物と、ミルキングで飲み会してたの』

『み、ミルキングで飲み会?』

『五年後にはワンカップになってるけどね…』

『…ホント?』

『もう…嘘ついてどうするの』

『あ、そう…』


夏輝は、驚いた顔のままウンウンと頷き、『あ、そう…』と、呟いていた。

『あ、そう…ワンカップ…あ、そう…』と、何度も呟いて、やがてニヤニヤしていた。

何でニヤニヤするの。

これ、絶対バカにしてるよね。

ワンカップ、バカにしてるよね。

おっさんくさいとか、何とか。

美味しいのに。

もう。



夏輝は私から顔を逸らして、『くっくっ…』と笑い始めた。

いつまで笑っているんだろう。



でも、そんないたずらな笑顔も、素敵。

バカにされているとわかっていても、笑顔を見せてくれるのは、嬉しい。



私が焼いたパンで笑顔になってくれるなら、それでいい。



例え、あなたの隣には常に綺麗なお姫様がいても。

私のことを好きにならなくても、彼女にしてもらえなくても。

私みたいな、天パ眼鏡ブス地味ダサ子になんか、目もくれなくても。

ただのパンを焼く、下僕だとしても。



こうしてパンを焼いて、その時だけでも、あなたの気を引けるのなら、それでいい。

その時だけでも、その笑顔は私の物だから。



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