王子様とブーランジェール



(………)



そんな二人の会話をよそに。

私の頭の中には、昨日の出来事と痛みを思い出してしまう。


見下ろされた冷たい目と、怒鳴り声。

寄り添って立つ、二人。



私は、格下げの身分…。



『うっ…』



また、涙がホロホロと溢れてきてしまった。

何だか、この写真…寄り添う二人を見て、悲しくなってしまったのだ。

もうやめる。夏輝のこと、好きでいるの、もうやめるって、言ったのに…。



そう簡単には、忘れることは出来ない…。



『と、と、桃李っ!ど、どうしたの?!』



律子さんの驚く声が耳に入って、ハッと我に返る。

あっ…私、泣いてしまった。

ど、どうしよう。



『ひょっとして、昨日のあのイジメられた件、思い出させちゃった?…あぁっ!ごめん、ごめんね!…こんなエグいもの、処分するから泣かないで!』

パネルがバキッと割られる音がした。

そこまでしなくても…。

『あ、だ、大丈夫です、すみません、すみません…』



『桃李。おまえさん、ひょっとして、竜堂のこと好きなのか?…同中だし、何かあったろ』



突然、松嶋にふられる、核を突いた話。

私は思わず固まってしまった。



『あ、え、え…あの』

『…どれ。話せるなら話してみんしゃい?聞いてやる。話せるとこだけでいい』

『あ…』

『どんな話でもちゃんと聞いちゃる。嘘でも何でも。今ここにいる俺と律子は、少なくともおまえさんの味方だ』



味方…。



その一言で。

私の中で、何かを開いてしまった。



今まで、誰にも言えなかったことを。

スラスラと話してしまう。



『あ、あ、あのねっ…私』

『うんうん』



律子さんと、松嶋に。

出会ったばかりの二人に、話してしまった。



私と夏輝の出会い、関係性。

私が夏輝を好きだとわかったきっかけの話。

里桜ちゃんとのこと…黒いもやもやの中身のことは話せなかったけど。

そして、今に至る私の想い。

格下げ身分である私の葛藤など。



全部、話してしまった。



『………』



二人は、最後まで黙って聞いてくれた。

ご静聴、ありがとうございます。



話が終わった後。

その反応は…。



『…んー。…んんーっ!!』



律子さんが急に唸り出した。

え…?



『…んーっ!ダメ!…ダメよ!ダメよ!…ダメー!…桃李、そんな男、桃李にはふさわしくない!』

『…え?』

『そんなタカビーヤローに、こんな可愛い桃李はもったいない!ダメー!』



…ええっ?!


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