王子様とブーランジェール
夏輝に、私はもったいない?
え?
そんな事を言われたのは初めてで、若干戸惑う。
どういうこと?
だって、夏輝はみんなが憧れる素敵な王子様で。
で、私は天パ眼鏡のみずぼらしい下僕、格下げの身分…。
『…桃李には、顔だけのタカビーヤローなんかより、もっともっと良い人が絶対いるんだから!桃李のこの可愛さ、健気さ、優しさをわかってちゃんと大事にしてくれる人、必ずいる!』
『え…』
『…だから、そんなタカビー竜堂のことなんて忘れなさい!私が桃李を大切にしてくれそうな良い男、探してくるから!そんなヤロー、絶対絶対ダメー!』
夏輝のことを忘れなさい!って…。
まさか、そんなにキッパリ言われるとは思わなかった。
意外過ぎて、正直頭が着いてかない。
律子さんの興奮具合に、松嶋はまた苦笑いをしている。
『おいおい律子。そんな勢いで急に否定したって、桃李の頭が混乱するだけだぜぃ?…仮にもおまえさん、桃李の好きな人の悪口を桃李の前でバッサリ言うとは…』
『だって、だって!ホントに許せない!こんな可愛い桃李をそんな下僕のような扱いをするなんて…ヤロー失格よ!』
『下僕っていうのは、あくまでも竜堂の元カノが桃李に放った言葉で、桃李が洗脳されたかのように自分自身をそう評価してしまったことにあるんだろ?』
『…えっ』
松嶋、今、何て…。
すると、松嶋は私の様子を察したのか。
改まった表情と空気を私に向ける。
『ま、松嶋…』
『桃李、今のおまえさんの話を聞いて、言いたいことがあるんだけど…いいかえ?』
私に言いたいこと…。
今まで、そんなことを言ってくれる人は、そんなにいなかった。
理人、だけだもんね。私が夏輝のことを好きだって知ってる人。
あと…里桜ちゃん?
松嶋の問いに、静かに頷く。
もうこの際、どんなひどい言葉を投げ掛けられても、大丈夫。
もう、ドン底に行くとこまで行ってるから。
『…まず。今言った通り、その《下僕》だとか《格下げ身分》とか、自分を卑下する言葉。それは、元カノに言われて、なお自分で評価してしまったことだ。…実際、竜堂には《下僕》とか言われたワケではないのだろ?』
『…うん』
そうだ。
夏輝は、そんなことは言わない。
だけど…。
『…ま、高圧的な態度で来られちゃ、無理もないのか。それは昨日俺も見ていたから、何となくわかる』
うんうんと頷く松嶋。