王子様とブーランジェール
『でも、おまえらには話を聞いただけじゃ、俺らにはわからない、おまえらの歴史があるから。そこは何も言えん』
すると、横で律子さんが『えー!何でよー!』と、松嶋に噛みついていた。
私達の歴史、か…。
…そうだね。
今、話した内容では、夏輝の悪いところばかりで。
でも、それ以上にいっぱい良いところ、あるもん。
『…だがな?桃李』
『は、はい』
『おまえさんは、下僕だの、格下げ身分だので嘆いているが…そこから脱却する為に何か、したのか?』
『…え?だっきゃく?』
『その、竜堂に振り向いてもらうための努力さ。自分から積極的に話し掛けるとか、オシャレをしてアピールとか。アピールアピール』
『あ…』
夏輝に振り向いてもらうために?
何をしたか…?
考えてみるが、実際、何も思い浮かばず。
『…だって、こんな下僕でみずぼらしい私が、夏輝にアピールだなんて、図々しいにも程が…』
『うーん。その下僕の暗示がおまえさんを邪魔するのか。相当手強いな』
下僕の暗示って…。
私のこれ、暗示なの…?
『言わせて貰うがな?桃李。昔から今までのおまえさん、はっきり言って、ただ嘆いてるだけで何もしてない』
『え…?』
『悲劇のヒロイン気取って、ただ嘆いてるだけでは、そんなの届くワケがない。竜堂に。おまえさんの想い』
『あ…』
『だから、延々と嘆き続けるだけなのさ。何も変わらず。だから何も始まってないのだよ』
『………』
言葉を失った。
私、嘆いてるだけで、何もしてなかったの?
…ううん。
だって、私みたいな天パ眼鏡地味ダサ子なブスが、夏輝に『好き』って言ったって…。
…あ。
私、最初から諦めてる。
何もしないで…嘆き続けている。
何も…始まってないの?
『あ…ま、ま、松嶋』
『…まあ、あんだけ高圧的な態度を取られりゃ、自分を卑下したくなる気持ちはわからんワケじゃない。差し詰め《予め武器を取り上げられ、戦う気すら奪われた戦士》みたいなもんだ。戦い方すりゃわからんのだろ。おまえさんは』
『戦い方…?』
松嶋は頷く。
不敵な笑みを浮かべながら。
『嘆いてるだけなのに、好きでいるのもうやめるとか、ただの泣き寝入り…始まってないのだから、まだこれから始められるのだぞい?』
『え、あ、あ…』
『そんときは、しっかり戦い方、覚えてな?』
まだ、スタートラインにすら、立ってなかったの?私…。
こんな事実に気付かされるなんて、目から鱗だ。