王子様とブーランジェール
渡せたのはいいけども、その後にごちゃごちゃといろいろあってそれっきりになり…おみやげに対する反応はわからず。
そう言えば、もう一年経ったか…。
ファスナーの隙間から見える桃柄のハンカチを見つめる。
俺があげたものを使ってくれている。
これ…激アツすぎるだろ。
(嬉しすぎる…)
その場に立ち尽くしたまま、赤面してしまう。
顔が熱くなってきた。
また…!
なぜ今、こんな嬉しすぎること連続してるんだろうか。
…いや、いけない。
本来の目的を見失うな。
あの凶器を回収してしまわねばならない。
気を取り直して、再びカバンに手を入れる。
すると、カバンの奥底に硬いモノがあった。
掴んで取り出してみると…あった。
ついに見つけたぞ。
スタンガン。
スイッチをロックして、速やかにブレザーの内ポケットに収める。
ようやく回収できた…。
回収作業は無事済んだが、ベッド上の桃李は未だに寝ている。
背中を向けたままで、寝返りすらしていない。
ったく。手を焼かせるな。
なぜ、このスタンガンに固執してんのかは、知らんが。
(やれやれ…)
再び、椅子に腰掛けて、長く息を吐く。
桃李の背中を見つめながら、俺は一冊の本を手に取った。
新書サイズの本。
…これは、さっき桃李のカバンの中に入っていた本だ。
一緒に入っていた教科書やノートは全然使ってなさそうで綺麗なのに。
この本だけ、いっぱい付箋が貼っていて、よれよれで、読み込まれている感があった。
桃李が本を読む?
料理のレシピ本ぐらいしか読まないはずなのに。
どんな本を読んでいるのか気になってしまい、ついついカバンの中から取り出してしまった。
その表紙に目を向ける。
《なりたい私になる勇気を持つ術》…?
サブタイトル。
《変わりたいと思っているあなたへ》…?
変わりたい…。
どこかで聞いたことあるフレーズだ。
《私…変わりたいっ…》
…あぁ、桃李か。
そう思って、この本を読んでいたのだろうか。
改めて表紙を見つめる。
著者、松嶋織衣。
どっかの誰かと同じ名字か。不吉だ。
…と、いうのは冗談で、中を開いてみる。
パラパラと開いてサラッと読んでみると…あぁ、これ、コーチングトレーニングの本か。
女性のライフスタイルに重点をおいた、コーチングの本だ。