王子様とブーランジェール



難しい言葉を使わず、簡単な文章を使っている。

普段本を読まない人も、すらすらと頭に入っていけるようにしているのか。



『自己肯定感を高めるには』だとか。

『私には無理→私には出来るに変える』だとか。

当たり前にイイコト書いてんな。



『卑屈にならずに前向きに進む方法』『他人と比べない』というページに付箋が貼ってある。

付箋って何の意味?

お気に入りページ?

卑屈…なの?おまえ。

他人と自分、比べるの?

あんなにマイペースで、人に興味なさそうな桃李が?




《夏輝にとって、私はパンを焼いてくれる下僕だよ?》




…あぁ、これが卑屈なのか。

自己肯定感の低さが伺える発言だよな。

しかし、何でおまえが俺の下僕なんだよ…。

下僕だなんて一度も思ったことねえよ…。

さっきのおみやげの話からもわかるように、むしろ格上の尊い存在になってんのに。



何でなんだ…とは、言うまでもない。



わかっちゃいたが…全然伝わってないんだ。

俺のあの照れ隠しのためにとっていた態度が、そう思わせてしまった。

それはもう…わかっている。



そして読み進めていくと、俺自身もやましくドキッとさせられる言葉が書いてあった。




《素直になれる勇気、ありますか?》




うっ…これ、難関だ。

今の今まで、ずっと素直でいられなかったから。



でも、照れもプライドもすべて捨て去るつもりで行かないと。

きっと、伝わらない。




(………)




とりあえず、その本は閉じて。

桃李のリュックの中へと戻した。



そして、桃李の目が覚めるのを今か今かと待つ。

黙って座ってはいられたが、気持ち落ち着かず、ソワソワしながら。



なのに…。








「…だめー!こっちよこしてー!…早くよこしてー!」



ようやく目が覚めたと思ったら、この展開。

ベッドの上に座ったまま、ギャーギャーと騒ぎ立て、こっちに手を伸ばしている。

予想しなかったしつこさだ。



…しつこい!



「…ダメだっつってんだよ!…しつけえな!」



そう言って、手にしていたスタンガンを、再び自分のブレザーの内ポケットに収める。

それを見て桃李は「あぁーっ!」と、叫んでいた。

表情が一気に歪んで泣き顔になっている。




「…だめ!だめ!…しまわないでー!」



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