次期社長と訳あり偽装恋愛

「ちょっと声が大きいから」

「あ、すみません。つい……」

周りを見回しながらたしなめる。
フロアには数名の社員の人がいたけど、私たちの雑談は気にしていないように見えた。

私的には、宮沢が席にいなくて本当によかった。
さっき、営業部に行ってくると言っていたからね。
この話を宮沢に聞かれてたら何を言われるか分からない。
聞いていたら間違いなくからかわれる。

「やっぱり恋をすると綺麗になるもんね」

「ですです!」

「彼氏はできていないってことは梨音ちゃんの片想いかな」

「キャー、何か私がドキドキしちゃいます。どんな人なんですか?」

友田さんが興味津々に聞いてくる。
恋愛話を周りから聞くことはあっても、自分の話をしたことがない。
だからこの状況は慣れてないので、耐えられない。

「もうこの話は終わりです!仕事しましょう」

「えー、もっと梨音先輩の恋バナを聞きたいのに」

友田さんは口を尖らせる。

「仕方ない、次の機会に聞かせてもらおうかな」

「桐野さんまで!私の恋バナなんて面白くないので止めてください」

必死に懇願する私を見て桐野さんは「冗談よ」とクスリと笑って自分の席に戻っていった。
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