次期社長と訳あり偽装恋愛
「いえ、大丈夫です。立花さんは座っていてください」
「俺に洗わせてよ。洗い物ぐらい出来るよ」
いやいや、出来るとか出来ないとかそんなことはどうでもいい。
「ホントに大丈夫ですから」
スポンジを取られないように死守していたら、立花さんは諦めたのか引き下がってくれた。
私はスポンジを泡立ててお皿を洗い始めたけど、すぐに違和感に気づく。
あれ?
座っていてくださいって言ったはずなのに、なぜか私が食器を洗っているのを隣で見ている。
どうしてまだ隣にいるんだろう。
「あの、何してるんでしょうか?」
「河野さんが食器を洗ってるのを見てる」
しれっと言う。
別に普通に洗ってるだけで物珍しいことなんてないんだけど。
しかもすぐ側にいるもんだから、手を動かしていると立花さんの身体に何度も触れてしまう。
私はその度に「すみません」と謝罪すると立花さんは「いいよ」と笑う。
洗い物をするだけで、どうしてこんなにドキドキしないといけないんだろう。
「あの、水が飛んで立花さんの服が濡れちゃうので、向こうにいてもらった方がいいんですけど」
離れてくださいという意味を込めて、遠回しに言ってみた。
「もう少し見ていたかったけど、仕方ない。分かったよ」
クスクス笑いなから言う。
これって、からかわれていたんだろうか。
リビングに向かう立花さんの背中にジト目を向けた。