God bless you!~第12話「あたしの力、あなたの涙」
『今夜9時より。生徒会室、立ち入り禁止を解除します』
10月下旬。
周りではそろそろ推薦が決まるヤツらも出てくる。
桂木がそうだった。
『受かったよーん。お土産買って帰るね』とラインが来ていた。
羨ましい事この上ない。
右川の試験は、確か12月中旬。そろそろ追い込みだな。修道院の夜間は面接もある。右川の面接は、英語のテストより難関が予想される見込み。
午後9時。塾が終わった。周りは帰りを急ぐ生徒で騒がしい。
名残惜しく、いつまでも残っているのは、俺と森畑ぐらいだった。
今はもう、何の迷いも無い。どんなに悩んでもカラダが自動的に塾に行くので、それに任せていれば良かった。悩むだけムダなのだ。
この調子だと、来年になっても自動的に塾に来ているかもしれない。
(それは不吉なので、すぐに打ち消す。)
講義室では、いつものように、山下さんと森畑がまったり談話中。
受付で用事をすませてきた俺は、さっそく配られたばかりの課題を開いた。パッと見て解答のプロセスが大体浮かぶ、或いは自動的に浮かんだら問題ない。いくつか公式を思い描いてぼんやりしていると、途端に「おい」と森畑に額を小突かれた。
「おまえって、山下先生の元カノ奪ったの?」
「は?」
山下さんは、くくくと笑っている。
俺の居ない間に、一体何を仕込んでくれたのか。まるで重森。
「センセイ、スカした面して、怖ぇぇぇ」
森畑は、眉をピクピクさせた。山下さんは、やっぱり笑っている。
俺が教師を目指すことを森畑に暴露したのは山下さんだ。別に怒る程では無いけど……痛し痒しとはこの事である。
〝右川ファミリー〟
幻の兄とも慕いつつある山下さんだったが、やっぱりあなたもですか。
あれからというもの、森畑は、そっちの話がどうしてもしたいと、山下さんを引きとめていつまでも盛り上がっているんだが……よく飽きない。
今は森畑が過去に付き合った女子の話に発展中だ。
OLさんを二股した事には、「ダイエットするから協力しろって言うんですよ。そんな女、二股したって良くないっすか?」と、堂々と(ゲス)理論をカマす。
女子高の生徒に二股された事は、
「どうせあんたもやってんでしょ、って。何それ?みたいな」
俺的に、女子高生に一本。それは先のOLさんで証明済み。
〝友達の紹介は100%、断る。友達無くすから〟
〝ナンパは暇つぶし。一狩り行っとく?みたいな〟
「受験が有り難いっすよ。余計な付き合い断れるんで」
とか言ってるけど。森畑の華やかな交友記録は羨ましいというより、しんどくないの?と不安になるレベルだ。
そんな話を聞き流せる余裕が、俺にも生まれてきたらしい。
頷きながらも、学校の宿題を開く。辞書を引く手は止めない。この自動的スタイルを、決して手放しはしないのだ。
「おまえってさ、実際どういうレベル?今まで何人ぐらいと付き合った?」
「それ、今答えなきゃダメかな。絶賛宿題中なんだけど」
「こっちの答え合わせしようよー、センセイ」
山下さんはずっと笑っている。
スマホを開くと、右川から7時頃にラインが来ていた。
『今夜9時より。生徒会室、立ち入り禁止を解除します』
わざわざ連絡して来なくても、もう誰も立ち入り禁止を守っていない。
それも今夜からって、もう誰も行かないだろ、と思って見ていると、もう1通来ている。
俺と右川だけのグループラインだ。
『沢村先生、限定でお待ちしております。なう』

9時23分。

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