御曹司様の求愛から逃れられません!
そう言われたとき、昔の私たちが思い浮かんできた。いくつもの笑顔、涙。胸を焦がす気持ちを分かち合うとき、彼と私はいつも一緒にいた。

そのことに気付くと、はらりと涙が流れて頬を伝い、絢人さんの指にこぼれ落ちた。
彼は微笑みながらそこに軽いキスを落とす。

「俺は真夏に見合う男になりたい。今度は俺がお前のヒーローになりたいんだ。……大事にするよ。いつもそばにいる。もう泣かせたりしないし、何があっても真夏の味方でいる。真夏はひとりで何でもできるかもしれないけど、これからは俺を頼ってほしい」

「……絢人さん……」

「大好きなんだ、真夏。諦められない。多分、ずっと、俺はお前のことを追いかけ続ける」

爽やかな風が吹き抜けていき、私たちの髪を揺らしていった。私を見据えて離さない絢人さんの瞳は、今も私だけを映している。
彼を幸せにできるのは私なのかもしれない、そう思わせてくれる瞳だった。

絢人さんに手を伸ばし、背伸びをして抱きしめた。

「ま、真夏……」

彼が小さく戸惑いを呟いたのが聞こえた。今まで一度もきちんと私から彼を抱きしめたことがなかった。
絢人さんが好き。本当はずっとこうしてみたかったのに、勇気が出なかったのだ。

「……絢人さん……」

念願叶った私が悩ましく名前を呼ぶと、体の隙間を埋めるように抱きしめ返される。「真夏…」と同じように呟く絢人さんは、私の首もとに頭を落とした。
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