御曹司様の求愛から逃れられません!
それでも私はファイルをひとつ持って本部長室へと向かった。本部長命令なのだから仕方ない。こんなファイル、ただの口実だ。データ化したものをいくらでも取り寄せられるのだから。

本部長室のあるフロアに到着すると、忍び足で目的地へと向かう。なぜだか誰ともすれ違いたくなかった。
応接室ばかりが多く連なる廊下の奥に、その部屋はある。そこに、本部長がいるはずだ。

『今ちょうど婚約してるご令嬢が本部長に会いに来てるらしいから、失礼のないようにね』

……そして、あの玲奈さんも。

深呼吸をして、頭を仕事モードに切り替えてから、その部屋の扉をノックした。

扉はすぐに開いた。

「……本部ちょ、きゃあ……!」

「失礼します」を言う前に、わずかに開いた扉から手が伸びてきて、私の腕を掴んできた。その手に扉の中へと引っ張り込まれ、ふらついた体をその人が受け止める。

「真夏っ」

「わっ、絢人さん……!」

彼はそのまま私を胸の中にきつく抱き締められた。腰を引き寄せて密着させた後、背中を腕で包まれて隙間をなくされていく。
ファイルは足元に落ち、私の体の力が抜けて重力がかかるとともに、彼も抱き締めたまま腰を落としていく。

「やっと会えた、真夏っ……!」

「ちょっと、仕事中ですからっ……」

「昨日電話を切られて、ちゃんと説明できなくて気が狂いそうだった!仕事中でも何でもいい。手段なんか選んでられない。俺は二度と後悔したくないんだ……頼むから、俺の話を聞いて」
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