御曹司様の求愛から逃れられません!
まるで昨夜の電話の続きかというほど、あのときの臨場感が同じように続いていた。
私にしか話せない、と言っていたこと。……何だろう。私は頷いて、「お聞きします」と答えると、絢人さんは本当に安心した顔をした。

「ラブラブね、絢人。仮にも婚約者の前なのに」

私はビクンと背中が跳ねた。
その色っぽい声は、絢人さんのマンションのエントランスで聞いたものと同じだ。

絢人さんの体が目の前から退くと、やっと本部長室の全貌が見えてきて、この広い部屋には最初から“玲奈さん”がいたのだとようやく分かった。

お客様用の大きなソファに腰かけ足を組んでいるその人は、あのときと同じいかにもお嬢様というワンピースでそこにいた。
右側の手すりの内側には、あのブランドバッグが置かれている。

「うるさい、玲奈。あんまり見るな」

名前で呼び合っていることから、ふたりは同い年か、付き合いが長いかのどちらかだと分かる。
彼女があまりにも動じないからすぐに気付かなかったが、私は絢人さんの婚約者の前にいるのだと思い出した。

「あっ!」

ハッとして、私を抱き締めている絢人さんを突き飛ばした。婚約者の前で、私はなんてことを。彼は床に手をついたけれど、すぐにもう一度私の手を握り、懲りずにそばに引き寄せてくる。

「大丈夫だから、真夏。……ここにいてくれ。離れていくな」

“ここ”とは絢人さんの腕の中のことだ。
体が痛くなるくらいきつく抱き締められて、私も動くことができない。数日ぶりのその感覚は愛しくて、いけないとは分かっていても、しばらくそのまま彼に身を委ねていた。
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