【甘すぎ危険】エリート外科医と極上ふたり暮らし
私がため息つくのを見逃さなかったのだろう真澄さんが、少しわざとらしくそう聞く。わたしの心を知ってか知らずか、意を込めた目でわたしをじっと見つめている。
「大丈夫です。悪くありません」
ぶっきらぼうにそう答えれば、真澄さんは珍しくニッコリ微笑んだ。
これ絶対、わたしの心を見透かしている──。
面白くないけれど、その笑顔は悪くない。ずっと見ていたくなるような笑顔だ。
「見惚れてる?」
タオルを取ろうとした真澄さんが少し身をかがませると、近づいたわたしの耳に甘美な声で囁く。
「じゃあ、椅子を倒しますね」
歯科助手もいるのにこんなところで……口をアワアワさせているわたしをよそに、治療用のユニットの椅子は音も立てずにゆっくりと倒れていく。そしてあっという間に目を覆うようにタオルをかけられて、真澄さんの顔は見えなくなってしまった。
完全に真澄さんのペース。やっぱり遊ばれてるな、わたし。
でも如何せん、ここは口腔外科の診察室。真澄さんの独擅場、わたしはまな板の上の鯉だ。
もう好きにしてください。
緊張していた体の力を抜くと、それを悟ったように真澄さんが笑った──ような気がした。