【甘すぎ危険】エリート外科医と極上ふたり暮らし
今日歯を抜く場所の近くに、何か所か麻酔を打たれる。チクッとしたが、我慢出来ないほどの痛みじゃない。麻酔が効くまでしばらく待っている間も、真澄さんはこの後の準備に余念がない。カチャカチャ器具の音が、不安を掻き立てていく。
そして──。
とうとう、恐れていた時間が訪れてしまった。
お口の中の準備はオッケー。麻酔の注射をした辺りを舌で触ってみる。なんの感覚もない、麻酔の効きもバッチリだ。
向かう所敵なし状態なのに、真澄さんがわたしの口に手をかけると、緊張と恐怖から体に力が入る。目をギュッと閉じると、手に拳を握った。
「高梨さん、楽にしてくださいね。心配しないで、僕を誰だと思ってるんですか?」
また、これか。先週診察してもらったときと同じパターンに、どう答えるか悩む。でもわたしを挟んで真澄さんの反対側に立っている佐野さんは「え? 愛川先生は愛川先生じゃないんですか?」なんて、真面目に答えているから可笑しくなって体がわずかに震えてしまった。