勇気の魔法は恋の始まり。
普段来ることのないピロティの隅には花壇があった。

 色とりどりの花が雨粒をつけて揺れていたが、どの花も描いたことがありピンとこない。

 よく見ると、花壇は建物の陰に続いているようだ。

 少し覗き込んで見ると、一、二メートルほど離れた所に紫陽花が咲いている。

 季節の花なだけあって、水帆は紫陽花を描いた経験がなかった。

 見たところ、建物の裏だけあって人一人分ほどしか幅は無いが、軒下のため見たところあまり濡れることはなさそうだ。

「ベタすぎかな・・・」

 そう呟きつつ、水帆は建物と花壇の間に滑り込んだ。

 しゃがんで紫陽花を見上げる角度で構図を決めると、鉛筆をスケッチブックに滑らせ始めた。
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