片翼の蝶



〈いいのか、あれで〉


「珀」


〈貴子、お前と仲良くなりたいから、
 ああやって引っ付いてくるんじゃないのか〉


それは、そうかもしれない。


貴子は誰とでも仲がいい。


みんな貴子の雰囲気につられて明るくなるし、
一緒にいるだけで楽しくなる。


貴子はあまり誰かに誘いを断られることはない。


みんな予定を変更してでも貴子と一緒にいたがる。


それなのに私は、いつも断ってばっかり。


小説のためだとはいえ、少し最低だと思う。


あんな哀しそうな眸、見たことがない。


珀の言う通り、貴子は
仲良くなりたかったのかもしれない。


「どうしよう。怒らせちゃった」


〈謝るしかないだろう〉


「でも私、ダメなの。
 いつも言いたいこともロクに言えなくて、
 なんて言ったらいいか分からなくて。
 いつも、人を傷つけてしまう」


小説を書く人間のくせに、
人の気持ちを踏みにじってしまう。


言葉で人を傷つけてしまう。


思うことはあるのに、落ちてくる言葉は
どうしようもないもので、


まるで刀で人の体に切り込んでいくみたいに、
ズケズケと心を踏み荒らしてしまう。


震える唇を噛みしめると、
珀は大きくため息を吐いた。


顔が見られなくて、俯いたままだ。


私はずっと、自分の手を見つめていた。


〈それなら、手紙を書け〉


「手紙を?」


顔を上げると、珀は唇に大きく弧を描いた。


〈俺が導いてやる、ペンを握れ〉


珀はそう言うと、隣の席に腰を下ろした。


そして私をじっと見つめてくる。


私は言われるがままペンと紙を取り出して、
紙にペンを突き立てた。


すると珀が息を吸う音が聞こえてきて、
珀はそのまま言葉を落とし始めた。







貴子へ。


私はいつも言いたいことを
喉の奥に押し込んでしまうから、
こうして手紙を書きました。


少しでいいから、私の話を聞いてほしいの。











あのね、私は、あなたが嫌い―。










< 80 / 151 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop