片翼の蝶
上履きをローファーに履き替えて校舎を出た。
日はだいぶ沈み、茜色の陽が
キラキラと煌めいていた。
水飲み場には運動部の人達が群がり、
水を口に含んだり、頭から水をかぶったりしている。
自転車置き場にはまだ無数の自転車が置かれていた。
その自転車置き場の横を通り過ぎ、
校門を潜ると、いつもとは反対側の道を歩き出した。
貴子の家は私とは正反対の場所にある。
何度か遊びに行ったことのある家だから
道は覚えているけれど、
緊張と不安で進む足はおぼつかない。
きゅっとカバンを握りしめて、
私は真っ直ぐ前を向いた。
しばらく歩いていると、曲がり角の向こう側から
賑やかな声が聞こえた。
私はこの声を知っている。
その声を聞いた途端、足が竦んだ。
唇を噛みしめて、地面を見つめる。
「じゃあね、ばいばい」
「またね」
その声はだんだんと近づいてきて、
ついに曲がり角から姿を現す。
足先が視界に入ってきて、息をのんだ。
「あれ?茜じゃん」
「どうしたの?」
「貴子に用事?」
貴子の取り巻きの子たちの声がした。
はしゃいだ声は耳にキンキン響く。
その声を聞いて体が揺れた。
ちゃんと言わなくちゃ。
「貴子、は?」
「向こうにいるよ?」
顔を上げると、曲がり角の向こう側に向けて
指を指している。
私はごくりと喉を鳴らして、
一歩を踏みしめた。
角を曲がり、すぐそばに立っている貴子と目が合う。
貴子は怪訝そうな顔をして私を見つめた。
驚いたように口を開閉させて、
じっと私を見ている。
私は一歩貴子に近付いて向かい合うと、
カバンから手紙を取り出した。
「貴子、これ、読んでくれる?」
「何、これ」
「手紙、書いたの。
口じゃ上手く言えないから」
手紙を差し出すと、
貴子はゆっくりとその手紙を受け取った。
そして少しだけ眉を上げて手紙を見つめる。
もう一度私を一瞥すると、
貴子は手紙を開いた。