片翼の蝶



次のページを開くと、
長々と文字が並んでいた。


それに目を通すと、
真紀が言っていた通り日記みたいだった。


今日はこんなことがあったとか、
悩みがあるだとか、
明日はこんな予定があるだとか。


ページを捲ると今度は男の子の字が並んでいて、
やっぱり同じように日記が綴られていた。


これが交換日記か。


私はやったことがないから分からなかったけれど、
誰かと交わす日記も楽しいのかもしれないと思った。


ページを捲っていって、
最後のページに辿り着いた。


そこには男の子の字が書いてあった。






―〇月×日 △曜日 天気は晴れ。
 最近全然返事ないけど、大丈夫か?
 風邪でも引いた?
 返事くれないから、
 俺から書いちゃったじゃん(笑)
 
 今日はサッカーの試合があってさ、
 二点も決めちゃったよ。
 お前は今日、何してた?
 
 この間の質問だけどさ、
 言いたくなかったら無理して言わなくていいからな。
 俺はお前が誰だか気になったけど、
 知らないままなのも悪くはないよな。







大体見えてきた。


真紀は顔も名前も知らない男の子と
交換日記をしていたんだ。


サッカーの大好きな男の子。


真紀のことが気になっていて、
知りたいと思っている。


そんな彼との交換日記の途中に死んでしまった。


だからこの続きを書きたいんだ。


「この続きを書きたいの?」


真紀はこくりと頷いた。


〈彼、あたしのこと知らないの。
 あたしも彼のこと知らないけど。
 彼はあたしが死んだことも知らない。
 だから私の代わりに書いてほしいの〉


「ねえ、真紀はなんで死んじゃったの?」


私が聞くと、真紀はにこりと笑って答えた。


〈交通事故。交差点を渡ってたらドカンって〉


「分かった。死んでしまったことを書けばいいのね?
 友達ってことで書いていいの?」


〈違うの。私のなりすましで、
 続きを書いてほしいの〉


「えっ?」




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