片翼の蝶
短く返事を返して、教室を出た。
本当に私はお人よしだと思う。
断ればいいのに、断り切れなかった。
踏み込んでいけば踏み込んでいくほど、
真紀の純粋な思いに応えたいと思ってしまう。
この性格、なかなか直らないだろうなぁ。
警備員さんに言って名札を返して、学校を出る。
それにしてもセキュリティも万全だし、
汚れているところ一つ見当たらないこの学校にいるのは
とてもじゃないけど肩身が狭い。
足早に校門を潜って、私は来た道を引き返した。
正直道を覚えていなくて迷子になりそうだったけれど、
珀が道を覚えていたのでスムーズに帰ることが出来た。
家に着いたのはギリギリお父さんが帰ってくる前だったから、
なんとか怒られずに済んだ。
服を着替えて、机の前に腰掛ける。
ノートをカバンから取り出して、珀を見つめた。
珀は私を見て、ああ、と一つ頷くと私の隣に来た。
小説の続きを書こうと促したのは私だけれど、
何故か集中できない。
心の中にあるのは、真紀のこと。
「交換日記、返事来るのかな」
〈来るだろうな。おそらく〉
「そうしたら私、また書かなきゃいけないよね」
〈そうだろうな〉
珀が淡々とそう答える。
私は交換日記に記されていた
男の子の字を思い出していた。
きっと彼は真紀からの返事に
喜んで続けようとするだろうな。
でもそうなったら私が代わりに書かなくちゃいけない。
そうなったらなんだか荷が重いよ。
毎回あんな高校に劣等感を感じながら
知らない男の子と知らない話をしなくちゃいけないなんて。
〈おい、書かないのか〉
「書く。書くよ。でもさあ、私、
なんか納得いかないんだよね」
〈なにが〉
珀がため息をついてベッドに腰を下ろした。