片翼の蝶



〈茜!早く行こう!〉


真紀の輝かしい笑顔を見て、しまったと思った。


真紀に会わないように
一昨日会った場所は避けていたのに、


真紀は学校の門のところで待っていた。


まさかこんなところまで来るなんて思わなかった。


これから始まることを思うと頭が痛い。


真紀はキラキラした目で私を見つめていた。


「あのさ、私、忙しいんだけど」


〈どうせこいつと一緒にいるだけでしょう?
 すぐに終わるから大丈夫〉


珀を睨みつけて、
真紀は私の腕を引っ張ろうと手を伸ばした。


案の定通り抜けていってしまう。


何度も思うけど、この透けた感じが嫌いだ。


触れないって、
なんだかんだ辛いんだなあって思う。


お母さんやお父さんに対しては、
いつも「触らないで」って思うこともあるけど、


触れないと触れないでもどかしいんだな。


真紀は今度は珀の手を引っ張った。


珀は驚いたように躓きながら
真紀に引っ張られていく。


仕方なくため息をついてその後を追う。


一昨日と同じように電車に乗って、
真紀の高校に向かった。



満員電車に揺られ、カバンをきゅっと握る。


変わり映えしない景色を眺めるのに飽きて、
足元に視線を巡らせた。


サラリーマンの靴先を見ていると、
ふと、何か異変を感じた。


お尻の辺りに、違和感を感じる。


もぞもぞと、蠢いている。


まさか、これはもしかして!


「ちょっ……と」


小さな声でそう呟く。


後ろを振り返ろうとしても怖くて振り返れない。



これは所謂、痴漢というやつでは?



ゴツゴツした手が私のスカートの上からお尻を弄る。


逃れようと前に数歩ずれると、
それについてくるように手が伸びる。


気持ち悪くて、吐き気がしそう。


目に涙が滲み、呼吸が荒くなった時、
すっと、誰かが私を抱きしめた。



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