片翼の蝶



「えっ、これだけ?」


私が声を上げると、真紀は眉を顰めて
ノートを見ていた。


お前は誰だっていうことは、
もしかしたら交換日記の相手が
真紀じゃないことがバレてしまったっていうこと?


ノートを眺めていると、
突然扉が勢いよく開いた。



「お前、誰?」



一人の男の子が、
私を訝しげに睨んでいる。


短い黒髪に、メガネをかけた男の子で、
きちんとブレザーを着こなしている。


少しがっちりした体つきの男の子は
私に近付いてきて、ノートを見つめた。


「もしかして、お前が書いたの?それ」


ノートを指さして、男の子はそう言った。


私はノートに視線を落として戸惑う。


もしかしてこの男の子が
この交換日記の彼?


だとしたら、やっぱりバレていたんだ。
私が書いたってこと。


そんなにすぐにバレるとは思わなかった。


びっくりして思わず口を噤むと、男の子は言った。


「なんでそれに返事をした?
 俺はあんたのために書いたんじゃないんだぞ」


「ご、ごめんなさい。この子に頼まれたから……」


慌てて謝って、ノートを差し出した。


男の子はノートを受け取ると、
そのノートをじっと見つめ、それから重いため息をついた。


「彼女はどうした?
 最近見かけないんだ。どこにいる?」


「え、えっと、彼女は、その……」


しどろもどろ言いかけて、
はっと息をのんだ。


どうしてこの人の口から
そんな言葉が出るの?


だっておかしいじゃない。


真紀とこの男の子は
秘密の交換日記を書いていたんだよ?


それなのに、この男の子は言った。




「最近見かけないんだ」って。



「ど、どうして……あなた、
 この彼女のことを知って……?」


「とっくに気付いてた。
 この日記を書いていたのは、稲葉真紀だろ?」




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